出産のきもち
 
出産は十人十色。安産といっても、楽だったといっても、誰にとっても命がけです。
痛かったけど、怖かったけど、やっぱりあれは奇跡の瞬間でした。
産んだ直後は「もうこりごり」と思ったけど、またまた経験したくなる世にも不思議な出来事です。

----子宮口2センチ

5月10日17時、破水と陣痛が始まって、お義父さんとお義母さんが駆けつけてくれる。その時も「うーん、痛い〜痛い〜」ってうなったけど、今にして思えば「痛い」って言えるだけ余裕だったみたい。その時は痛いなーと思ったけど、それは痛くなかったのかも。看護婦さんが「こんな痛みじゃまだまだ産めないよ」と意味不明なことを言うなぁと思ったけど、そういうことだったのかー!

ウテメリンで止めていたせいで、痛みは弱くて陣痛がつかない。すでに1分間隔で呼吸が苦しいけどいわゆる「陣痛微弱」状態が続く。22時になってダンナ様が東京から飛行機で到着。すごく会いたくて、勝手に来てくれたら楽になるような気がしていた。この時はまだ「お腹が痛いの〜」とちょっと話せる元気もあり今思えばまだまだ余裕。でもその時は「こんなに痛くて死ぬ」と本当に思っていた。彼は到着して荷物を置くと、二言三言話して、突然ソファベッドを組み立てて「はぁ〜疲れた!」と横になってそのままスースーと寝息を立て始めた。こっちはもうびっくり唖然、怒る元気も気力もなく、そのまま一人で陣痛に耐える事になろうとは…。

全然寝てない日が5日目に突入して、夜中になると眠くて朦朧としてくる。でも1分間隔がずーっと続いていて、合間に寝る事もできず吐きそうになる。痛さがどんどんどんどん強くなってじっとしていられない。横になっても歩いても、ベッドから降りても痛い。陣痛って「痛い→痛くない→ 痛い→痛くない」の繰り返しだと思っていたら、実は違って「結構痛い→かなり痛い→相当痛い→痛くて死にそう→結構痛い→…」の繰り返しだった事が判明!!痛くないっていう部分は無いに等しい!!この「結構痛い」という部分も、普通に生活していたら「痛くて死にそう」の部類に入ると思う。この痛さの中で生きてる事自体、とっても不思議だった。人間って、なかなか死なないものだなぁ…と朦朧と考えていた。

----子宮口4センチ
1時、2時になると相当痛くて、一言でも言葉を発すると、もう止まらなくなりそうでずっと口を閉じたまま耐えていた。 あぐらを組んで呼吸を整えて、波がくると唇を噛み千切ってこらえるので精一杯。真っ暗で怖かったけど電気もつける気力もないし、つけて下さいとも言葉にならない。だんだん、早く生みたいと思った事を後悔してきて「やっぱり薬で止めてもらおう」とか不可能なことを考え始める。でも結局、いつかは産まないといけないし、ここまで頑張ったのにまた1から陣痛に耐えるのか?それでいいのか??とかずっと自問自答。

彼は真横でスースーベッドで寝ていて、看護婦さんが入ってくる度に笑っていく。心の中では煮えくりかえり、子供が生まれたら絶対に離婚してやる!離婚してやる!もう絶対に離婚だーーーーー!!!!って1000回くらい思った。あまりに痛さに耐え切れなくなってきて「…いったーーーーーい」と2、3度叫ぶと、彼はムニャムニャと「あんまり夜中に大きい声出すんじゃないよ〜…ムニャムニャ」と寝言を言った。この時は殺意が芽生えた。そばに包丁があったら危なかったねぇ。

----子宮口6センチ
3時、4時になると耐えられなくなってきて、借りていた団扇をボロボロにつかんだり、壁をバンバン叩いたり、床を転げ回ったり、かなり壮絶な痛さに直面。彼は隣で相変わらずスピスピ爆睡中。いっそ誰か殺して!と思うくらい痛い。どうして気絶しないんだろう??と不思議だった。もう子宮口は全開だろう、絶対全開だ、いや、全開であって欲しい!!と思ったのに、内診するとまだ6センチ。一体全開っていつどうやったらなるの?って謎だった。「お願いなので帝王切開にして下さい」って100万回願ったけど、きっとダメだろうなぁと思って口に出せず。「お昼頃には生まれるかもね」と言われたけど、まだあと9時間も耐えるのか?!と余計に絶望的になった。とにかく時計とのにらめっこ。時計の針を指で昼に回そう、そしたらすぐに生まれるかもしれない!と何度も思った。もう思考回路もメチャクチャ。とにかく時間が長く感じる。早く昼になれ、昼になれ、ってそれしか考えられない。

----子宮口8センチ
7時に朝食が運ばれてきて、彼が起きる。「うーん、よく寝た!少し寝れたかい?」とあくびしながら聞かれた時は、返事する気にもなれなかった。というか、返事もできないくらい死にそうに痛い。死にそうにというか、死んでもおかしくないくらい痛い。麻酔をしていないのがおかしいくらい痛い。なのに彼は私が怒ってると勘違いして何度も聞く。しつこいから呼吸を整えて「…寝てない!!」と超早口で返事するのがやっと。朝食が運ばれてきたけど、食べられない。もういきみたくて我慢も限界。彼に「食べる?」としつこく聞かれて首をふると、かわりにムシャムシャ食べていた。今この瞬間、私は彼になりたい。と心の底から願った。
看護婦さんに「いきみたーーーーーーーい」と叫ぶと、そろそろ陣痛室に行こうとお許しが!待ってましたと思ったけど、案外ここからが長くてガッカリ…。

----子宮口全開
陣痛室での痛みは、もう言葉にできない。お尻をボーリングの球で何百回も叩いてるみたいな感じ。お腹が痛いのは終わって、お尻が痛くてたまらない。赤ちゃんの頭がおりてきて出たがってるせいだった。浣腸して導尿したけど、そんなの全然痛くないくらい麻痺してる。こんなに死にそうなのに生きてるのって、世界中で私だけだと思い込んだ。「赤ちゃんも頑張ってるのよ!」って言われたけど、そんなの知ったこっちゃない。どーでもいいから早く楽にして!と思った。「赤ちゃんを産む」というよりもはや「早く痛みを終わらせたい」作業に変わり果てている。「ダンナ様、付き添うの?」と聞かれたけど、彼より先に「いいです!一人で産みます!」と叫んだ。赤ちゃんに会えるという感動なんかぶっ飛んで、もう誰か楽にして〜〜〜〜〜ってもはやケダモノ状態。ものすごい形相で死にそうになってる私を見て、彼は固まったまま顔面蒼白。
助産婦さんが内診しながら「うりゃ!」って何かを突っついたと思ったら、ドバーーーーって温かい水が出てきてびっくり。「前期破水だけだったので、人工破水させましたよ」って言われて「へぇ〜」と思ったら、ますます陣痛が強くなって何かが出てくるような感覚に襲われて「も〜生まれるーーー!!」と絶叫。

----分娩室にて
「歩ける?」と聞かれて、返事もせずに分娩室まで猛ダッシュ。陣痛が引いたすきに動かないと、一生動けないような気がしたから。普通はヨロヨロつかまりながら歩く人が多いらしく、助産婦さんが肩に手を乗せた途端に走り出したら、助産婦さんもビックリ。「ちょっとちょっと、ゆっくりでいいんだよ〜」って追いかけて来る間に、うりゃー!!って勝手に台に上って足をかけて「準備オッケーです!」って感じ。上った瞬間にまた陣痛の波がやってきて「きたきたきたきたーー!」と叫んで助産婦さんと一緒に「いきみ」の大合唱。でもまだ生まれなくてショボ〜ン。
分娩室の真横がナースステーション。仕切りもなくて、すぐ横に看護婦さん達が朝礼やってるのが丸見え。汗びっしょりで息も絶え絶えでいきんでるのに、ナースステーションでは私なんてまるで無視で朝の準備に大忙し。「え〜ドラマなんかでは、いっぱい集まってみんなでヒッヒーフーってやってくれるのに、何で無視すんの??」ってびっくりした。 「っていうか、医者はどーした!」って周りをキョロキョロ探しても、 やっぱり助産婦さん一人。まさにマンツーマンで広い分娩室に二人きり。なんか寂し〜!!出産ってこんなもんですかい?

2回目にいきんだけど出てこなくて、どーゆーことよ!と思ったら、看護主任さんがやって来た。「さっきは上手にいきんでたのに、ヘタになったわね」と言われてカッチーーーーン☆ムっときて次こそやってやるわー!と死ぬ気でいきんだら、なんか今までにない痛みで、股になんか挟まった気がした。
「いたたたたーなんか挟まってるー!!」って叫んだら「頭が出てきたよ〜」って言われて俄然やる気が出てくる。お医者さんがフラリと覗きにきて、ちょっとホっとしたら「もうちょっとだね〜。生まれたら呼んでね」って帰っていってあり〜?ってがっかり。

「次いきんだら生まれるよ」と言われて、渾身の力を込めていきんだら、もっと挟まった痛みが強くなって、思わず体を起こして股の間を覗き込んだら、なんと赤ちゃんの肩が挟まって止まっていたからギェーってぶっ倒れそうに。なんか見ちゃいけないものを見ちゃった気がして、どーしようどーしようってドキドキしてたら「もう一回いきんでー!」って言われてウリャーー!!って頑張ったら、ツルンとプリンみたいな、ゼリーみたいな感触がして急に痛みも感じなくなる。ちょっとすると「ホゲーホゲー」って不思議な声が聞こえて「あ〜終わったんだ…」ってホっとする。と思ったら、またまたグググーっとお腹が痛くなって何か生んでしまった。なんと胎盤がゴトンと落ちてびびった。これで本当に終わったのかしら。

----出産直後
「赤ちゃんですよ」ってお腹の上に乗せられた時「こんなでかい生き物が入ってたの?!」って何とも信じられん気持ち。モワ〜っと湯気がたってて、手足をビクビクさせて大声で泣いて、羊水の匂いなのか何だかちょっと臭いし、もー興奮状態で「なんだこれ!なんだこれ!!」って騒いでいたら、みんなに笑われて「なんだってあなたの赤ちゃんでしょう?」って言われたけど全然ピンと来ない。今の今まで痛かったけど、本当に産んだのか?これが私の子供なのか??と何が何だかサッパリ分からない気持ち。 泣いてるけど、どーすりゃいいのよ?と思ってたら、洗ってくるねってどこかへ連れ去られて行っちゃった。やっとこお医者さんが登場してチクチクと無言で会陰を縫われる。チクチクチクチクと待てども待てども終わらなくて「あの〜どのくらい縫うんですか?」と聞くと「どのくらいって相当切れてるからね。かなり縫うよ!」と言われてびびったけど、全く痛くも痒くもないのが不思議。さっきまでの痛みに比べれば屁でもない。 どーゆー訳だか興奮状態でアドレナリン大放出って気分だった。

やっと縫合が終わって「お部屋まで歩ける?」と看護婦さんに付き添われたけど「はい、歩けますから」とスタスタと歩いて戻った。部屋の前では、彼とお義父さんお義母さんが何とも言えない表情で「お疲れ様」と迎えてくれた。「終わったよ〜♪」と報告すると、彼は赤ちゃんを抱っこさせられて、カチンカチンに固まっていたから笑ってしまった。「さー終わった終わった!ゆっくり寝るぞ〜」と思ったけど、目がランランして全く眠れない。赤ちゃんの授乳やらオムツ替えやら何やらで忙しくて休まる所ではない。この赤ん坊、生まれた時から甘えっ子で、私の腕枕が無いと眠れない、オッパイが無いと眠れないと泣き通し。そしてそのまま、休まる事なく24時間年中無休の育児生活に突入してしまった。 ちなみに産後にオッパイが詰まって出なくて、オッパイマッサージをされた時は陣痛より痛くて涙がボロボロ。会陰の傷も1ヶ月近く痛くて痛くて、あんなに出産で痛い思いしたのに何でまた…とちょっと産後ブルーに突入。

ちなみに、分娩室に入ってから出産まで20分だったそうで、陣痛に耐えた時間は19時間。分娩室に入ってからは短かったみたいだけど、とにかく陣痛が辛くて「きっと病院中で一番歴史に残るくらい難産だったんだろうなぁ…」って真剣に考えてたら、入院中向かいのベッドだった二人目ママさんに「おめでとう!すごい安産だったって助産婦さん言ってたよ!」って言われて「…誰の事?」って真面目に聞き返してみた。まさか自分が安産だったなんて、夢にも思わないもので。周りに言わせれば、出産直後にスタスタ歩いて病室に戻った時点で驚きだとのこと。あれで安産だったら、難産って凄まじい!!出産ってまさに命がけ。

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